活脳鍼
脳卒中の片麻痺と言語障害

活脳鍼とは?
「活脳鍼」は、中国の伝統的な鍼治療である「眼鍼」に、唇への鍼治療「唇鍼」を組み合わせた新しい鍼の治療法です。主に脳卒中の後遺症である手足の麻痺や言語障害の改善に利用しますが、うつ病や不眠、早期の認知症にも活用しています。

眼鍼とは?
眼鍼は目の周囲のツボに鍼を刺すことで病気を改善させます。目の周囲には、8つのツボがあります。それぞれのツボによって対象となる病気が異なります。ツボの分け方は、まず目の中心に垂直線と水平線を想定し、それによって4分割された区域をさらに均等に2分割し、それらを1区から8区とします。

1区は肺と大腸、2区は腎と膀胱、3区は三焦、4区は肝と胆、5区は中焦、6区は心と小腸、7区は脾と胃、8区は下焦です。したがって、8つの区域に13のツボがあることになり、症候に応じてこれらのツボを使い分けることによって、様々な病気に効果を発揮します。脳卒中後遺症の片麻痺や言語障害の治療には、両側の胃と肝、上焦、下焦のツボが用いられます。したがって、8つのツボということになります。ところが、実際には右の肝と上焦、左の胃と下焦のツボは必要ありません。それは、日ごろの臨床や脳波、光トポグラフィーの検査により確かめられています。これにより、安全で殆ど痛みを伴わない治療が可能となったのです。この新しい眼鍼は、脳卒中の後遺症の他に健忘症や抑うつに効果が期待できます。

唇鍼とは?
唇鍼は唇の周りの皮膚に鍼を刺す治療法です。口の周りは目の周り以上に脳と強い結びつきのある場所があります。そこで、どこに鍼を刺せば効果的に脳細胞に刺激を与えられるか、いろいろ研究を重ねた結果生まれたのが、「唇鍼」です。ツボの分け方は、眼鍼の4つのツボに対応する位置のほか、正中線上の上下2ヶ所、合計6カ所になります。唇鍼は前頭葉を鎮静化させる作用がありますので、唇鍼の後に眼鍼を行うと、脳卒中の後遺症には効果的です。眼鍼に唇鍼を併用することによって、これまでのところ、眼鍼単独の治療を上回る効果が得られています。その他、唇鍼はストレス障害や、不眠、痛みの軽減などに効果が期待できます。


活脳鍼の刺激伝達経路と大脳への影響
自分の意志で動作することを随意運動といいますが、この運動には前頭葉の右背外側前頭前野→運動前野→一次運動野→骨格筋の動き、といった一連の刺激の流れが必要です。右背外側前頭前野は行動するという意志を発現させ、これを受けて運動前野は行動するためにはどのような運動をすればよいのかプログラミングします。それが一次運動野に伝わり、結果として骨格筋が意志通りに動くということになります。
「唇鍼」の刺激は、唇付近に分布する三叉神経第2枝を介して、そして「眼鍼」の刺激は三叉神経第1枝を介して前頭葉に伝達されます。そして「唇鍼」の刺激は投射により右背外側前頭前野を含む前頭葉全体を鎮静化に向かわせ、「眼鍼」の刺激は右脳を活性化させます。これらの現象は次の光トポグラフィーや脳波計による実験により判明しました。
つまり、「活脳鍼」は「唇鍼」と「眼鍼」を併せた治療法なので、「活脳鍼」を行うことにより、この鎮静化と活性化が一連の現象として大脳に発生するのです。同じ三叉神経への刺激なのですが、大脳に与える影響が異なるということは新しい知見です。但し、この現象が脳卒中で失った右背外側前頭前野→運動前野→一次運動野→骨格筋、といった随意運動に必要な一連の刺激の流れを取り戻すのです。この鍵を握っているのが右背外側前頭前野だと私は考えています。

光トポグラフィーによる作用の検証
光トポグラフィーと呼ばれる脳血流測定器を使用した検査では、「唇鍼」により前頭葉の血流が徐々に低下し、鎮静化に向かわしていました。逆に「眼鍼」により脳の前頭葉の血流が顕著に増加し、活性化を示唆していました。 (光トポグラフィーによる検査結果参照)

脳波による作用の検証
活性化したときは脳の活動を示すβ波が、鎮静化したときは脳をリラックスさせるα波があらわれていると推測できます。このことは非常に重要で、脳は活性化と鎮静化が適度にあらわれていると正常な機能が営めます。また、これは活脳鍼でも必要不可欠な現象と言えます。実際、活脳鍼では大脳全体にα波があらわれ、かつ前頭葉から右脳にかけてβ波が認められます。特に側頭葉のβ波は顕著です(脳波計による検査結果参照)

導かれた仮説
人間は脳卒中を起こすと、安静を保たせるために手足を動かせないようにするのではないかと私は考えています。ただし、そのシステムは脳血管の詰まりなり出血なりが落ち着いたら出来るだけ早く解除されなければなりません。長引くと片麻痺や言語障害などの後遺症を残してしまうからです。ところが、命の危険が去り意識が戻ってくると、自由に手足を動かすことができない自分を自覚するようになります。そうなると、「手足は動かないという悲観的な思い込み」をするようになります。これが、片麻痺の回復を長引かせている大きな原因と考えているのです。そして、この思い込みを起こさせている場所が脳の前頭葉の右側にある右背外側前頭前野で、それを解消させるのが、「活脳鍼」なのです。更に活脳鍼は右脳を活性化します。特に側頭葉の活性化は活発に動き回っていた頃の記憶を甦らせ、忘れかけた手足の動かし方を思い出させるのです。つまり、「活脳鍼」が強制的に右背外側前頭前野を含む大脳全体にα波を発生させ、リラックス状態にすることで、「手足は動かないという悲観的な思い込み」を忘れさせ、且つ右脳のβ波を増加させることで直感的に手足は動かす方法を思い浮かばせるのです。そのヒントはβ波に満ちた側頭葉からもたされるのです。側頭葉には自由に手足を動かしていた過去の記憶がプールされていますし、海馬もあります。もしかしたら、「活脳鍼」には、潜在意識を積極的に顕在意識に浮かび上がらせる作用があるのかもしれません。私たちの日常の動作の多くは考えた末に行っているわけではありません。殆ど無意識で行われています。恐らく潜在意識の賜でしょう。そして、左右の側頭葉は連絡していますので、右脳の情報は左の側頭葉にある言語中枢にも伝わるはずです。これにより活脳鍼が言語障害も改善するという理由が推測されます。

臨床結果
これにより、麻痺した手足を積極的に動かす行動に移れるのです(筋電図による検査結果参照)。事実、脳卒中後遺症に対する活脳鍼の効果は、きわめて高いものがあります。まったく動かなかった手足が,わずか15分ほどの治療で動き出すことも稀ではありません。また、いったん動くようになれば、あとはリハビリテーションを続けることで確実な機能の回復・向上が見込めます。CI療法と併用すれば、完全回復も夢ではないでしょう。その驚異の程をご理解いただくために、実際に動画で活脳鍼の効果をご覧になってください。患者さんの承諾を得て紹介させていただきました。

活脳鍼の応用
認知症 学習能力向上
最近、東京都老人総合研究所の内田さえ主任研究員等は顔面への鍼灸刺激が大脳におけるアセチルコリンの分泌を高め、脳血流を促進していることを動物実験で明らかにしています。このことは記憶力増強のみならず、認知症の改善にも役立つことを示唆しています。前頭葉の血流増加と認知症の症状改善の比例関係が認められるという臨床結果も報告されていますし、抗認知症薬のドネペジルも結果的には脳内アセチルコリン濃度を高めているからです。このことは、私達が行った光トポグラフィーを用いた言語流暢性調査の結果や、長谷川式簡易スケールを応用した問診票によるテスト結果からも支持されます。勿論、実際の臨床でもアルツハイマーや脳血管性認知症の患者さんの短期記憶や、抑うつ、不安、焦燥など周辺症状の改善がみられています。

ストレス障害、小児発達障害
また、右背外側前頭前野は不快予測を行う機能があります。不快予測とは嫌な気分をもたらすことです。この右背外側前頭前野をリラックスさせるということは不快予測の軽減に利用できるかもしれません。つまり、ストレスに対する感受性を低下させ気持ちを前向きにさせる可能性があります。また、不快なトラウマや刷り込みも解消させることが可能かもしれません。ストレスによる身体化障害や小児の発達障害の改善をみていますので。

痛みやしびれの中枢性感作
更に不快予測は、頑固な痛みやしびれも発生させると考えられます。不快な痛みやしびれが右前頭前野に記憶されると、辛い経験を思い出したり、その原因と思える動作をしたりするだけで、過去の不快な痛みしびれ体験が自動的に身体化現象として再現されてしまうのではないでしょうか。それが頭頂葉に蓄積されると、痛みやしびれが脳裏から離れなくなり、慢性的に自覚するようになってしまうのではないかと考えています。いわゆる中枢性感作です。

この現象も活脳鍼と併用して、手足や顔の痛みやしびれを感じさせている神経根付近に刺鍼することで解消可能です。これは、中枢性感作を緩和して、当該神経の機能を強化することになります。

当該神経付近への刺鍼は、血流改善並びに神経伝達の活発化を促すので、神経機能の強化が期待できます。しかも、深部筋を刺激することで頭頂葉にも影響を及ぼすかもしれません。

これらの推測は、慢性的に手足や頭部、歯肉の痛みやしびれを訴えている多くの患者さんが改善しているという私達の臨床結果から肯定できます。

活脳鍼のヒントは、ペンフィールドの脳地図からでした。感覚野のうちでも顔や手足の占める割合が多いことでした。この感覚野は頭頂葉にあります。したがって、活脳鍼の刺激は前頭葉の鎮静や活性を誘導するだけではなく、頭頂葉にも同じような結果を与えるかもしれません。刺激伝達路は、顔面の鍼刺激にしろ、手足にしろ、視床を介して、前頭葉や頭頂葉に運ばれるはずです。
事実、活脳鍼の臨床において、身体のどの部位を触られたか判断できないとか、問いかけに即答できないとか、思ったような行動がとれないといった症状を呈する脳卒中の後遺症でも改善がみられるのです。

うつ病や神経症
また、うつ病の多くは左前頭葉の背外側前頭前野の血流低下が観察され、血流促進により症状の軽快がみられるという臨床結果が報告されています。
活脳鍼の右三叉神経第1枝への刺激は、左背外側前頭前野の血流も瞬時に増加させます。狙いを定め、左顔面の三叉神経だけに鍼刺激を与えれば、優先的に左前頭葉の血流をアップすることも可能です。事実、私達の臨床においても、精神神経疾患の改善をみています。左背外側前頭前野の血流を促進させた結果かもしれません。

その他、活脳鍼のうちでも唇鍼の刺激は、三叉神経第2、第3枝を介して大脳を鎮静化します。この作用は、脳卒中の後遺症の改善だけに利用されるわけではありません。神経症や不眠症の改善にも役立ちます。認知症やうつ病の睡眠障害などの対策にもなります。特にうつ病の早期覚醒は回復の妨げになりますので、唇鍼の利用価値は絶大です。

自律神経調節による疾病予防
この三叉神経第2、第3枝への刺激は、三叉神経脊髄路核を介して、唾液核の副交感神経を興奮させ、唾液の分泌を促進させたり、顔面の血管を拡張させたりするとの報告があります。その刺激は更に三叉神経脊髄路核から腸間膜や腎臓、骨格筋に連絡する交感神経を興奮させることで、夫々の血管が拡張し、結果的に血圧を低下させるとも述べています。
私達が行った血圧脈波の実験からも、このことを示唆する結果が得られています。
これは、活脳鍼が内蔵や自律神経の機能も調整するということで、様々な疾患の予防にも役立つということが推測できます。

今後の希望と課題
活脳鍼の刺激は大脳の前頭葉や側頭葉だけではなく、頭頂葉や後頭葉、更には小脳や中脳、間脳、延髄にも影響を与えることが示唆されます。脳卒中の後遺症としての、運動麻痺やめまい、身体動揺感、顔面麻痺、複視、視野狭窄、半盲、嚥下障害などの改善例が多数ありますので、まず間違いないでしょう。

但し、運動麻痺に関しては、筋の痙縮や関節の拘縮があると、スムーズな回復は望めません。複雑に絡んだ糸を根気良くほぐすような治療を続けるしかありません。それでも、拘縮はさておき、痙縮に対しては改善率が向上しています。

痙縮を起こしている筋腹を伸展させた状態で、その筋肉の深部に鍼を刺入し、振動あるいは圧迫を加える手技が功を奏しているようです。その他にも手や足の裏の筋肉への指圧も効果的です。これらの刺激は前頭前野や頭頂葉に快感をもたらすと考えています。痙縮は不快記憶と、その蓄積による異常な防衛反応であると考えているからです。

ですから、たとえ発症後6ヶ月以上経過したとしても、絶対にあきらめないでください。是非、根気良くご自分に合ったリハビリを続けてください。

そして、活脳鍼がその一助になれれば、この上ない喜びです。動かなかった手足が少しでも可動すれば、患者さんにとっても福音になるはずです。
私達は、いつも活脳鍼が患者さんに夢と希望を与える存在になることを願っています。
その気持ちが、回復への第一歩になるはずです。

なお、中脳には黒質と呼ばれるドーパミンを分泌する組織があります。ドーパミンの分泌促進はパーキンソン病の症状を軽減させます。症例数は少ないながら、活脳鍼による改善例が集まりつつあります。近いうち確立した治療法としてご紹介できると思います。


現在この活脳鍼は下記で治療を行っています。ご興味がある方は、是非下記のホームページをご覧下さい。

脳梗塞後遺症のリハビリに りゅうえい治療院

活脳鍼の施術例

※画像をクリックしてください。動画を見ることができます。
windows mediaplayer、またはreal playerが必要です。


@診断(問診、脈診、舌診、腹診、切診)
東洋医学的に体質や症状を判断します。


A鍼施術
活脳鍼(顔)の他、手足にも鍼を刺入します。多くの方は、それほど痛みを感じないとおっしゃっています。
神経伝達が低下している場合は、鍼による直流電気刺激も行ないます。


B灸施術
手足等に灸をすえます。少し熱いですが、効果的です。


C散鍼(さんしん)
仕上げの鍼施術です。筋肉を緩める目的で行います。



D特殊鍼灸施術
必要と思われる方に行います。全身の筋肉を緩め、精神を安定化させます。



医師による評価

医学博士 横田 昌典
「活脳鍼の効果について」・・・詳しくはこちら

鍼灸のうち鍼に眼鍼というのがあります。中国で行われている技術で、脳卒中などで手、足のきかなくなった人によく用いられているそうです。まぶたに鍼をうつもので、眼鍼といっても眼球に鍼をうつわけではありません。大分前のことですが、脳梗塞で右腕がきかなくなった人に行ったのを見ました。鍼をうってから10分〜15分位でしょうか、そのままにしておいて、鍼を抜いてから、「はい!手をあげて!」と声をかけました。すると、本人はほとんど反射的に右うでを挙げたのです。挙がるとは思っていませんでしたので、まさに唐突でした。本人は勿論、私も、あっけにとられたのでした。こういう技術が中国にあるのか…と思ったのでした